時間がテーマの作品とか


 年末年始は、期せずして時間がテーマとなっている作品に触れることが多かったように思う。

 一つめは漫画。『さくらんぼシンドローム 1―クピドの悪戯2』という作品。

 ディテールがどうというだけでなく、しばしば悔恨の残る過去とどう向き合うか、どう手放すのか、あるいは来るべき未来をどう迎えるのか、それぞれの登場人物の苦悩が描かれていて、予想以上によかった。男性誌に連載されていたせいもあるのか性描写は多いが、嫌な感じはない。よくわからないが、これぐらいの性生活の描写があるぐらいがかえってリアルなんだろうなという気もする。

 終わり方がややあっけないが、最後まで読み通してしまった。率直にいうと、漫画という枠を超えてすごくいい作品に出会ったと思う。心理描写も絵も、長いストーリーを通じて、稚拙な感じを受けるということが多分全くなかった。設定がやや非現実的だが、作品世界からは作り話という印象を受けない。作者である北崎拓という漫画家の他の作品をもっと読んでみたい。もっとも、「クピドの悪戯―虹玉」は先に読んでいた。

 表紙の絵は実際の漫画よりもやや下手に見える。


 その後読んでいたのは、全く上の作品とは脈絡なく、テッド・チャンという作家の小説が掲載された2冊。

 1冊めは、『ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選』。私はだいたい作家で選ぶので普段はあまりアンソロジーなどは読まないのだが、テッド・チャンの新作が!と知って急遽購入した。

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)
テッド・チャン クリストファー・プリースト リチャード・A・ルポフ ソムトウ・スチャリトクル F・M・バズビイ イアン・ワトスン ロベルト・クアリア ボブ・ショウ ジョージ・アレック・エフィンジャー ロバート・シルヴァーバーグ シオドア・スタージョン デイヴィッド・I・マッスン H・ビーム・パイパー
早川書房
売り上げランキング: 11652

 読んで思ったのだけど、テッド・チャンって意外と、というかストレートに甘い作風ですよね。「商人と錬金術師の門」の読後感は、中短編集『あなたの人生の物語』の表題作で受けた感触にやや近い(「あなたの人生の物語」特有の仕掛けにまつわるものは別として)。

 過去はもう取り返しがつかない、ということと、けれどもその過去の意味は?というところでわかりやすい結末を迎える。結末の投げ出し方もグレッグ・イーガンに似ているかもしれない。ただ、寓話的な面白さはチャンらしい。

 他の収録作品も、中短編ということもあってか、ワンアイディアでの勝負みたいな面もありつつ愛らしい話が多かった。また読み返すと思う。
 この書籍を読んでいて思ったのだけど、そういえば『夏の扉』も時間物のSFなんですよね。そういえば、という感じ。


 で、テッド・チャンの別の作品が載っているというので買ったのは、「S-Fマガジン 2011年 01月号」。

 既に品切れになってしまったようだが、古本に出てくるかもしれない。

 この「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」という中編は読み応えがあった。途中から別の展開もあったんだろうなとは思うし、その意味ではやや単調ではあったが、コミュニケーションと性との関係について少し考えさせられる契機になった。もっとも、考えるといってもこの作品からの触発は衒学的な範囲を越えない。そういう類の(だからこそ私が好きなタイプの)小説だった。