映画「ガタカ」

 

ガタカ [DVD]

ガタカ [DVD]

 落ち着いた映画でした。テーマはシンプルなように思えるけれど、その奥行きは意外に深い。不思議な味わいが残りました。

 遺伝子操作による誕生が普通のこととなっている近未来が舞台。あらすじは省略します。少し意外性もあります。


 観終わってふと思うと登場人物たちはみな、ほぼ全体に渡って感情をあまり激しく表に出さない演技をする(そうでない場面もあります)。淡々とした雰囲気の、大人向けの映画という気がしました。

 建築物やインテリアのデザインが、一見無機質なようでいて上質。めまぐるしさはないけれど、統一感のある美しい映像といっていいように思います。背景音楽もその役割を果たしていました。


 自分の生まれ持った何か/すべてを引き受けて生きていくということの重さ、あるいは軽さを、抑制された筆致で描いた佳作と感じました。

 頑張るとはどういうことなのか。「資質に恵まれている」とはどういうことなのか。競争に勝つとは?そこから降りるということは?*1


 先天的な障害を持つ方にこの映画をお勧めするとすれば、それは単純に励ましになるからというだけでなく、共感できるだろうから。


 単純なハッピーエンドではないけれど、少し苦い結末が残す余韻は決して不愉快なものではありません。もう観たかたはわかると思いますが、他人と自分を比べること、あるいは「こうありえたかもしれない」自分と現実の自分を重ね合わせることの危険さを感じました。

 他人に夢を見るという大きな間違いの結果でもあるかもしれません。ああいう結末を選んだ彼を非難したり怒ったりする気はないし、そういう生き方もあるんだろうなあという気はしますが。


 書き出す前に考えていたことと少し違う方向に筆が進んできたのですが、考えていたことを単純化して書くならば、主人公の努力は決定論ニヒリズムへの挑戦として大いに称賛されるべきであり、そこから私たちが学ぶものは多いでしょう。記事を分けて、本『苦悩の存在論ニヒリズムの根本問題』について少し書きます。

*1:やや長文ですが、内田樹の研究室: 階層化=大衆社会の到来も少し関連するなと思い起こしていました。