『帰還―ゲド戦記最後の書』を読みました

 読み終えて印象が残っているうちに、簡単ですが書いておきます。『帰還―ゲド戦記最後の書』(ISBN:400115529X)。

 帰還―ゲド戦記最後の書 (ゲド戦記 (最後の書))

 3巻(『さいはての島へ』)からだいぶ経ってから発表されたこのゲド戦記シリーズ4巻目は、「3巻までで終わっていればよかったのに」と嘆かれたり、「ファンタジーの世界に現実世界のフェミニズムや性や暴力を持ちこんでしまった」、と非難されたりしています。Amazonでのレビューも含め、あまり肯定的な感想は読んでいません。

 それであまり気が向かなかったのですが、読んでみました。思ったほど重苦しくもなく、むしろ読んでよかった(私があまり衝撃を受けなかったのは、現実世界の重苦しく悲惨な面をも既に知っていたからかもしれませんが)。


 この本に限っていえば、<「男の力」と「女の力」のどちらかを肯定し、どちらかを否定しているわけではない>と読むのが正しいように思います。何か一本の筋に従って結論を出しているというわけですら、ありません。登場人物のそれぞれの来し方・考え・口に発した言葉が、読者にたくさんの問いをそっと投げかけてくるのです。


 また、3巻までと断絶しているとも思いません。既に1巻(『影との戦い』)で人の在るべき姿について深く深く思索がなされているその延長線上には、必然的にセックスというテーマも登場するでしょうし、ジェンダーについても然りです。
暴力については、人間が必ず持っている暗く深い闇の部分(1巻と2巻(『こわれた腕環』))や死と生への強い渇望(3巻)が既にとりあげられているのですから、破壊への衝動という点からみて、前面に出てくることは何ら不自然ではないでしょう。

 エロスとタナトスは互いに切り離すことができず、また人間から切り離すこともできないのではないでしょうか。


 この一連の作品群は結論を与えているわけではありません。またある意味では、結論を考えることを要求すらしていません。
 物事を考えるということはどういうことなのか、そして正しい考え方とは何か、さらに考えるのはよいことなのか、そもそも「よい」「正しい」とはどういうことなのだろうか。そこまで遡っていくことを可能にしてくれるシリーズです。