anonymousな書き手として

 ネットで書くとき、自分の専門分野についてはあまり書かないようにしてきた。
 ひとつには、自分の身元が知られることで、自分や周囲に対して個人的な攻撃が加えられるのがいやだから。もうひとつには、専門的な知識と知見のプロバイダーとしてではなく、より一般的な感覚から、ある基本的な考え方の枠組みを持ったひとりの個人としてものを書いていきたいから。
 ここでいう「一般的」な感覚というのは、世の中の人と現時点で似通った、という意味ではなくて、さまざまな事柄に対するgeneralな、という意味のこと。10年ぐらい前だったか、ジェネラリストとその発言が社会にもっと必要だ、お互いがんばろうじゃありませんかみたいな応援の文章を新聞で読んで励まされたことを憶えている。
 覆面をして覆面でなければできないやりたいことをするというのではなく、社会に埋もれた有象無象の一人として自分の考えを書いていきたいというスタンスで書いている。

 ただ、自分の専門分野をあえて避けて書くこともないかと以前から思っている。ニュースなどをきっかけに社会に向けて発言する(というほど大げさなものでなくても)、あるいは考えたことを書く場合、それは種々雑多な分野が当然含まれてくるわけで、その中には自分の専門分野の知識が役に立つこともあるだろう。これまでも全く触れていないわけではない。あえて触れないことにすると逆にそれが自分の専門分野を明らかにしてしまうかなという危惧もあってそうしていたのだが、もう少し気がねなく書いていきたいと思っている。

 知らない分野についても知っている分野についても、一般人として共有できる基礎的な情報をもとに、どう考えていくべきかという部分は、単純に書いてみたいし、書いていいのだろうと思う。私はどうも間違いやミスリード、弊害を気にしてしまって書かないですます傾向があるのだけど、もう少し読み手と読み手からのつっこみへの期待値を上げて、どんどん恥をかいた方がいいかなという気もしている。

 もちろん、私の生活の中でどの程度の割合ネットと接する時間を作るかというのはまた別のファクターだ。とここで書くのは読者に失礼な気もするけど、もともとネットを通じた見知らぬ人たちとの見知らぬままでの遠い交流、銀河通信的なコミュニケーションへの信頼が私の出発点なので、人生のある一時期にややネットから離れていてもその出発点は変わらない。とくに身辺に重大なことがなければ、10年後もネットで書いています。