早起きエンペラーの『自省録』
エンペラー吉田のことではありません。
3月頭ぐらいからだったかな、また『自省録』を読み返しています。この2月に改版されたようですが、改版前のものでいうと62頁、「第五章」の冒頭部分です。ちょっと笑ったところを、ちょっと長くなりますが引用しますね。
明けがたに起きにくいときは、つぎの思いを念頭に用意しておくがよい。「人間のつとめを果すために私は起きるのだ。」自分がそのために生まれ、そのためにこの世に来た役目をしに行くのを、まだぶつぶついっているのか。それとも自分という人間は夜具の中にもぐりこんで身を温めているために創られたのか。「だってこのほうが心地よいもの。」では君は心地よい思いをするために生まれたのか、いったい全体君は物事を受身に経験するために生まれたのか、それとも行動するために生まれたのか。小さな草木や小鳥や蟻や蜘蛛や蜜蜂までがおのがつとめにいそしみ、それぞれ自分の分を果して宇宙の秩序を形作っているのを見ないのか。
しかるに君は人間のつとめをするのがいやなのか。自然にかなった君の仕事を果すために馳せ参じないのか。「しかし休息もしなくてはならない。」それは私もそう思う、しかし自然はこのことにも限度をおいた。同様に食べたり飲んだりすることにも限度をおいた。ところが君はその限度を超え、適度を過すのだ。しかも行動においてはそうではなく、できるだけのことをしていない。
結局君は自分自身を愛していないのだ。もしそうでなかったら君はきっと自己の(内なる)自然とその意志を愛したであろう。ほかの人は自分の技術を愛してコレに要する労力のために身をすりきらし、入浴も食事も忘れている。ところが君ときては、款彫(ひだぼり)師が彫金を、舞踊家が舞踊を、守銭奴が金を、見栄坊がつまらぬ名声を貴ぶほどにも自己の自然を大切にしないのだ。上にいった人たちは熱中すると寝食を忘れて自分の仕事を捗らせようとする。しかるに君は社会公共に役立つ活動はこれよりも価値のないものに見え、これよりも熱心にやるに値しないもののように考えられるのか。
朝なかなか起きられないからといって、結局君は自分自身を愛していないのだ。
とまで言われたら、おいおい大げさだなと逆に笑ってしまいたくなりますね。
で、こんなことを言ってるおっさんは当時のローマ皇帝。誰に言っているかというと、自分自身に向けて。そもそも『自省録』の内容自体、公開を前提としていない覚え書きのように書かれたものです。
出版社/著者からの内容紹介
著者はローマ皇帝で哲人.蕃族の侵入や叛乱の平定のために東奔西走したが,僅かにえた孤独の時間に自らを省み,日々の行動を点検し,ストアの教えによって新なる力をえた.本書は静かな瞑想のもとに記されたものではあるが,著者の激しい人間性への追求がみられる.古来,もっとも多く読まれ,数知れぬ人々を鞭うち励ました書. --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。内容(「BOOK」データベースより)
アウレーリウス(121‐180)はローマ皇帝で哲人。蕃族の侵入や叛乱の平定のために東奔西走したが、わずかにえた孤独の時間に自らを省み、日々の行動を点検し、ストアの教えによって新たなる力を得た。本書は静かな瞑想のもとに記されたものではあるが、著者の激しい人間性への追求がみられる。古来、もっとも多く読まれ、数知れぬ人々を鞭うち励ました書。
皇帝陛下は気まじめだなあ、でも朝なかなか起きられなかったんだなあ、それで一生懸命自分を叱咤激励していたんだなあ、という共感の笑いとともに、ひとかけらの真実が伝わってくるような気がします。
よく、英語のかなり身分が高い人への敬称で、"Your Majesty"とかいうじゃないですか(言わないか。別に身分が高い人とよく会って英語で話すわけじゃないから)。
アウレリおっさんと会うことがあったら、"Your Punctuality"と敬礼したい。これはかなりの尊称です、私からしたら。
今は亡きマルクス・アウレーリウス皇帝陛下や他のやんごとない方々の参考になるかどうかわかりませんが、私は朝起きる時間が例えば「6時」だったら、「6回」枕を叩いてから寝ます。
ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、チーン*1
どこかで聞いたか読んだ方法なんですが、意外とかたちに現れた行動が記憶に刻み込まれ、自分に暗示をかけるのに役立っているような気がします。
あと、目が覚めてからなかなか起き上がれないときには、「あと3回深呼吸したら起きる!」と決めたりします。これも、深呼吸すると頭に酸素が行って目が覚めてくるので、けっこうお勧め。ただ、息を吐いたときにそのまままた安らかな眠りに就いてしまうことがあるんですよね。
……少し前に、「カウントダウンするとよい」という内容の記事をどこかで見かけて、この話を書こうと思っていたのですが、残念ながらどこの記事だったか今探しきれません。営業マンの時間管理 朝方人間は仕事で得する! - [営業・セールスの仕事]All Aboutや、くいっぱひとからゲ。は見つかったし、それぞれ参考になるんですが、この話を書こうと思ったきっかけはそのどちらのページでもなかった気がする……。追記:ITmedia Biz.ID:仕事の取りかかりを早くするには?【解決編】でした。
ともあれ声に出してカウントダウン、よさそう。自分の声であっても人間の声って、聞くと目が覚めそうですよね。
話がそれましたが『自省録』はたいへんお勧めです。対人関係でのストレスや、自分の怠け心・だらしなさ、肉親を失った悲しみ、そういったものにうちのめされつつもなんとか平静に微笑みを持ってなすべきことを淡々となしていこうとする人の独り言に、読み手としては大いに勇気づけられます。
諸行無常とかいうふうなテーマで言えば『徒然草』に近いけど、私にとっては『徒然草』より読みやすい。しかも何度読んでも励まされます。
- 作者: マルクスアウレーリウス,神谷美恵子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/02/16
- メディア: 文庫
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ただ、自殺もまた一つの手段のように書いているような部分にはまったく同意できないし、キリスト教に対する認識については訳者の神谷美恵子の解説に書いてある通りなのだろうなと思うけど。
なお、これまで『自省録』については以下の記事でごく簡単に書きました。
『自省録』を参考に手元で。マルクス・アウレリウス・アントニウス・ピウス・ミッキー・マウス・デウス・エクス・マキナ・こん平・でぅす。アウレーリウスなどと伸ばしたくない派。鼻の下と李下に冠を正さず←読み返しても自分で意味が分からないはず、書いていても別に意味なし。(冠次郎)(冠二郎か?確認不要)
このおいしさの凝縮はアウレーリウスの『自省録』に似た味わい。自省録は元々全くのひとりごと文なのでそこは違うが。でもたいへん刺激的なのは一緒。
- 作者: マルクスアウレーリウス,神谷美恵子
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なんなんだあんたら、名前カタカナのくせして(?)。 ←わけわからない偏見、そもそもカタカナじゃない
子供が早くして死んだり、皇帝としての公務で次から次へとトラブルが舞い込んだり、そういう中で自分がどう気持ちを整えどう考え何をすべきか、その実践としての記録。
*1:チーンはない。