万物理論
『万物理論』、解説も含め読了。
- 作者: グレッグ・イーガン,山岸真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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ある歌の一節に、
― やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる すべてのものが メッセージ ―
という。この小説は、世界がやさしさに包まれる話。
特定のイデオロギー、いや、なんらかのパラダイムを持つことを強く嫌悪し、しかし一方でひかれるのは、イーガンの個人的なかつ切実な課題なんだろうなあ。『祈りの海』からしても、ほとんどその発想のエバンジェリストとすら言える。アイデンティティのよりどころなどないと言いすぎ、みたいな。現代日本の時代精神にぴったんこ。
しかし、本書は、高度に還元された汎神論の核に自由と責任を用いた感じの世界観というようなレッテルがなお可能のように思う。その意味では、短篇「放浪者の軌道」の方がむしろ優れているかも。
『幼年期の終わり』や『人間以上』など、とかくSFは…うーん。『万物理論』はそこまで不気味ではないけど。
ある種のユートピアを舞台に展開する、全く別のユートピア成立の物語。
アシモフのファウンデーションシリーズも読み方次第ではこれと遜色ないと思うんだけどどうだろう。
あと、性別を超えた存在(人間)との交感はル・グウィンもテーマにしていた。書名なんだったか、冬の惑星での話。
あえて書く必要があるのは、この本を読んで、他人を無知カルトと見下すような読みは薄っぺらいということ。フロイトをどこまで否定できるかも疑問。イーガンのような言説はいわば西洋社会内部からの自己批判として機能するところに意義がある。
意外とさらっと読めたのはあまり刈り込んでないからかも。あと読むと知的虚栄心を満たせるよ。
どこでもほぼ絶賛ばかりなのでやや辛口なレビューになりました。面白かったですよ。