競技、スポーツ、道、美の堪能

 高校野球やオリンピックが今熱い。というほど熱さは感じないけれど、ふだんから考えていることがあったので書きたいなと以前から思っていました。

『こんにちは。私は高校野球プロ野球女子アナウンサーと結婚、という道筋に奇異な印象を抱いています。けなすわけではありませんが、見世物としてのプロスポーツに対する社会の位置づけや、いわゆるスポーツファシズムについてだとか、その辺りのもやもやとした違和感についていずれ書いてみたいと思っています。球児の純粋さを祭り上げるのは、祭り上げられる高校生たち本人にとっても不幸なことではないかと。』

 とid:finalvent:20040809のコメント欄に書いたのですが、ちょっとテーマが大きすぎて私の力量ではまとまりませんでした。とりあえずの到達点として掲載します。

  1. スポーツについては、<選手の努力を無条件で褒めたたえること>に疑問を差しはさんではいけないかのような枠組みが確立されています。強いものが偉く、また弱い者もその頑張りゆえに偉い。スポーツファシズムという言葉は、<スポーツにおける強さ、努力という尺度を絶対の基準とする考え方>という少し広い意味でも用いることができると考えます*1
     それゆえに、たとえばサッカー選手が「サッカーだけが人生じゃない」という趣旨の発言をすると、自分が熱狂している対象をおとしめられ冷水を浴びせられたように感じて激怒する人も多いでしょう。

  2. しかし、「サッカーだけが人生じゃない」という発言そのものはまったく正しい。何かに真剣に取り組むことは見習うべき姿勢だとしても、何に向かってどう努力していくかがとても重要。

     さらにいえば、見て楽しむものとしてのスポーツは、いわば見せ物であり、芸能です。プロのアスリートはいい意味でも悪い意味でも芸能人、芸人と言ってよい。自分が芸を見せる。その芸を楽しんでくれた人や、宣伝になると思い雇ってくれた人からお金をもらって、食べている。これはどんなにその規模が大きくなろうとも変わりません。

  3. このように、スポーツを無条件に持ち上げることが間違っているとしても、抑圧するべきだとかスポーツに資金などを振り向けるべきでない、とは私は思いません。またスポーツに努力すること自体が愚かしいとも思いません。その資金と時間の余裕があれば今死にかけている人を助けるほうに回せとか、そこまで過度な要求はしません。*2

     ローマ帝国時代から「パンとサーカス」は有る意味で庶民の必需品で、娯楽です。剣奴は剣奴にすぎませんが、剣奴だからといって不当にさげすむこともおかしい。
    「人はパンのみにて…」という言葉が意図する対象*3は決して「サーカス」と混同されてはなりませんが、サーカスはサーカスでまた人類が必要としているものなのでしょう。
    スポーツは見せ物だとしても、見せ物として真剣に取り組む姿勢に触れることには、得るところが大きいはずです。

  4. 別の観点から言えば、見せ物としてのスポーツは武道や茶道などの「道」とは異なると私は考えます。
    しかし自分で行なうスポーツについては、もう少し肯定的に捉えています。また、見せ物としてのスポーツが、身体感覚へと変換される面については、「道」との境界はほぼなくなるのかもしれません(ここはなかなか難しい)。

  5. ちょっと頑張ってまとめてみます。「スポーツは決して手放しで称賛すべきものでもないが、かといって見下すべきものでもない。金持ちがする/させる/見せる道楽といえるが、道楽としての意義を追求していくことには『それなりに』『大きな』意義がある」

 うーん…まとめてみて浅はかさは否めませんね。

 関連して、<運動と身体感覚、また身体の美を礼賛し陶酔することの喜びと危険>については 極東ブログの記事オリンピックと身体の後半部分が参考になります(それにしてもドイツやナチスというのは、じつに様々な事柄を考える際の手がかりになるものなんだなあ)。

*1:「スポーツ ファシズム」で検索してみたところ、英国留学日記:ファシズムとサッカーが参考になりました。スポーツとナショナリズムの関係も、考えてみるとなかなか興味深いと思います。日本ではサッカーがとくに無意識的なナショナリズムの受け皿になっていますね。なでしこジャパンというような愛称も同じ観点から見ることができるでしょう。

*2:関連して、トリアージという概念について書いてみたいと思っています。

*3:これについては、ちょうどfinalventさんがよいタイミングで短くお書きになっている(id:finalvent:20040813#p9)のが一つのヒントになるでしょう。少なくとも「パンとサーカス」という意味での心身の健康だとか、そういう次元にとどまる話ではないことがおわかりになると思います。