お爺の小さな怒りと笑い



 駅で精算機の前に並んでいた。


 すぐ前のお爺が、機械の前で止まっている。何か手伝おうかと思うが、何で困っているのかわからない。
 ややあって、釣り銭が出ている方とは別の口を触りだしたので「こっちにありますよ」と斜め後ろから指さした。


 硬貨を取ってこちらを振り向くお爺。埴谷雄高のような、いかにも老人という顔だ。照れ笑いしながらフガフガと絞り出すように、「怒ったほうがおかしかったァー。」と私の顔を見つめて小さくつぶやいた。


 釣り銭が出てこない、と怒ったのだろうがお爺が怒っていたとは気づかなかった。しかし恥ずかしそうに振り向く姿に、こちらは既に愛想笑いを大きく浮かべていた。ドンマイですという気持ちがあふれたのだ。


 名言ではある。「怒ったほうがおかしかったァー。」