産後の性、『内臓が生みだす心』

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 NHKのテレビ番組「すくすく子育て」来週のテーマは「出産で問われる夫婦のきずな〜産後のセックスQ&A〜」らしい。


多くの夫婦が「セックスレス」に悩んでいることが、番組で実施したアンケートの結果でわかりました。「産後の体のこと」、「気持ちの問題」、「子どものこと」など、そこにいたるにはさまざまな原因があるようです。そこで、大切なことだけど、なかなか人に言えない・聞けない、「産後のセックス」に関して専門家と一緒に考えていきます。

 ふだんにもましてとりとめのない記事になります。

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 昨日、西原克成『内臓が生みだす心』をざっと読んだ。


内臓が生みだす心 (NHKブックス)

内臓が生みだす心 (NHKブックス)


 腰巻きには

細部には独特の言い回しがあるが、生命の本質を看破した内容は魅力に溢れ、かつ示唆に富んでいる。解剖学の精密な所見から進化を科学的に捉えた、天才三木成夫の正当後継者と言えるだろう

 とある。そんな感じで、一般的ないわゆる西洋医学的な細かく分割して「分析」する観点ではなく、進化の過程を念頭に置きつつ、各臓器・器官の機能や相互の関連についてまったく新たなパラダイムを提示する本だった。と、むずかしく書いているようですが、ざっと読んだだけであんまりよくわかっていません。

 人を透かしてその骨格・骸骨を見るように、あれは白骨の観法というのだったか、そういう視点が私の中で優勢だったがしばらく前からは、むしろ人体を一つながりの筋膜として捉える視点が重要という認識を持つようになった。というより、以前は白骨の観法的な視点が優勢だったということにしばらく前に気づいた。その白骨の観法の罠、虚無主義に陥る危険性については今回は省く。いつか触れるかもしれない。

 この書籍は骨格に大いに着目しているのである意味では「白骨の観法」的な側面もあるが、ホヤのような一本の消化管、肉のチューブ*1からの生物の進化をずっと追っている。骨格への物理的な観察と心理の動きのありかをきちんと切り分けている点でもたいへん参考になった、といっても今の私にはこのように粗雑にしか書けないし、あまり今回のテーマには関係ないので先を急ぐ。


 私を含めて一般の人にはかなり読みづらい本だと思うのでおすすめはできないけれど、随所にひどく実用的らしき知識が断片として埋もれている。

 今回思い出したのは以下の部分。ちょっと引用をためらうが、著者の主張としてはそういうことらしい。「第四章 新しき免疫学の樹立」の「誤った産科学」という項、155ページ。

 最近の20年間で、人類史上未曾有の帝王切開が花ざかりになっています。これも、もとより万やむを得ない場合に、シーザーの時代から行われた方法ですが、今ほど安易にしてはいけません。(中略)このとき母胎も受精時の生殖行動の蠕動運動にはじまる膣と子宮という腸管器官の蠕動運動のうねりが出産によって完結します。赤ちゃんの産道通過の摩擦が無上の悦びとなって一連の性欲の連鎖が完結して憶の状態のしずけさが回復します。
 帝王切開では母胎のお産が完結していないので、交接を途中で中断したように欲求不満となり、母胎は出産後あくなき性欲の亢進が起こり、家庭の崩壊につながる恐れのあるトラウマを母胎に残すこととなります。子宮も腸管の一部ですから、当然心が宿る器官なのです。

 と、もう少しこの話が続くのだが引用はここまでにする。

 読まれて「なんだそれ」と思われたかたが大部分だろう。「憶」の状態についての説明だとか腸管が心の宿る器官だということの考察などは本書の他の部分で書かれているのだが、引用部分も含めあまり一般的でない叙述が断言の連続という形でなされているので私も面食らった、が、そういうことはありうるのだろうなという印象は持った。

 こういった扱いの難しい話題をどこまで卑近なレベルに落として書いていいのかは迷うところだが、要するに自然分娩を経なかった場合、性の欲望・衝動が、コントロールしづらいほどに高まるという趣旨の文章のようだ。

 という話を載せると、帝王切開された方やこれから出産される方に後悔や不安を与えてしまうかもしれないが、もちろんまったくコントロール不能になるわけではないし、生活していればさまざまなストレッサーに遭遇するわけで出産方法もその一つにすぎない。他の何かと引き替えに帝王切開という選択をする場合も充分あっていいのだろう。
 できれば自然分娩が望ましいという大きな根拠にはなりそうだが、いずれにせよ、出産後の性の問題というのが存在しないかのように振る舞うことはできない。

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 ここで冒頭の話題に戻る。次週予告を知って、NHKも相当踏み込んだなあとその勇気に感心した。むろん、それは必要な勇気なのだが、無難な公共放送というイメージからはかなり外れた内容になる。

 しかし考えてみるとこうした話題はNHKだからこそ適切な取り扱いができるのであって、他の民放では少数のインタビューと井戸端会議的なコメンテーターがつないでいくただの下世話な話になりかねない。たいへん貴重な放送になるだろう。私が感謝するのもおかしいが、NHKナイス判断、と感じた。


 私が今回この記事を書いた理由は以下の2点、

  • 来週のNHK教育チャンネルのテレビ番組「すくすく子育て」(2005年11月19日午後9:00〜9:30、再放送は25日午後1:05〜1:35)は、広く視聴されるべき内容だと思うのでお知らせしたい
  • 他の方法で出産された方も悲観する必要は全然ないし、こういう番組を観たりだとか対処はいくらでもできると思うけど、これから出産されるかたには「できれば自然分娩がやっぱりいいみたいですね」と一応お伝えしておきたい

 ということです。

*1:という表現はしていなかったと思うが