『夏への扉』を再読しました

ロバート・A・ハインライン夏への扉』(ISBN:4150103453)を再び読み返しました。原題は"The Door into Summer"。カッチョイー。

 夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

− ぼくの家には外に通じるドアがたくさんあるが、飼っている猫のピートのためにもう一つ、猫用のドアを作ってある。しかしピートは人間用のドアのどれかが夏に通じているという固い信念を持っているらしく、冬に猫用のドアから外に雪が見えると、ドアを一つずつ開けろとせがむ。ぼくはそのたびに、ドアを一つずつ開けてみせてやるという巡礼の旅をする羽目になるのだ −

 私なりに要約するとこんなエピソードから始まる『夏への扉』は、冷凍睡眠とタイムトラベルという仕掛けを用いている点で紛れもなくSFです。 しかし仕掛けの面白さは面白さとしても、この小説の一番の見どころは他にあります。冷凍睡眠や、タイムトラベルにまつわるパラドックスは理解せずになんとなく読み飛ばしてしまっても十分楽しめます。



 親友や婚約者に裏切られ、金もなく友人もなく身一つでなじみのない環境に放り出される主人公。そんな主人公が見知らぬ人々のぶっきらぼうな親切やさりげない優しさに助けられ、自分の持っている才能と率直さと機転で、希望を捨てずに必死に立ち回る、その展開がこの小説の最大の魅力でしょう。



 と書くと清く正しく美しく、というように読めるかもしれませんが、そんなことはありません。

 でぶでぶに肥って、きいきい声を張り上げ、妙な媚態をみせてはしゃぐベルを見たとき、ぼくはわが目を疑った。それでもまだ彼女が、身体をひと身代と考えていることは明らかだった。スティックタイトの部屋着(ネグリジェ)を、肌も露わな格好に着ているのだ。それはしかし、彼女が女で、哺乳動物で、食い過ぎで、運動不足である事実を、露わに見せるにすぎなかった。

 このような人間の醜さも描くかと思えば、以下のような表現もあちこちに光ります。これはハードボイルドですね。

ジョンから三千ドル借りなければならない羽目になった。ぼくは、それだけの分の株を抵当に入れる証文を書いてジョンに渡した。ジョンは、ぼくが署名を終わるのを待って、それをぼくの目の前で破ったうえ紙屑籠に放り込んだ。
「払えるようになったら払ってくれればいい」

彼は、ぼくに自由に話させておいて、時たま二人のグラスを満たすときだけ話をさえぎった。

 また、タイムトラベルで来たなんてことは信じないとしながらも主人公という人間を信頼し、助けてくれた男性から後に届いた手紙の末尾ですが、

 ぼくらは二人とも元気。ただ、ぼくは、昔なら走ったところを、今では歩いてすます年になった。ジェニイは、若い頃よりますます美しさを増した。

ジョン

 『夏への扉』のテーマは、ジェームズ・キャメロンがもう少し重さを付け加え、映画「ターミネーター2」でサラ・コナーのモノローグとして語ったことに通じるものがあるのでしょう。The unknown future rolls toward us. I face it for the first time with a sense of hope. Because if a machine, a Terminator can learn the value of human life maybe we can too.

 このページを読んでいるまさにあなたに、『夏への扉』をお薦めします。

 サンコン

 summercontrailというアカウント名が長くてタイプしにくいので、これとは別にハンドルネームをつけようかと思います。

 とくにこだわりないんだよね。略して「左近」? でも「サマ子」もいいな。「コント」でもいい。

 とりあえず左近でいこうかなー。よろ竹!