山口瞳『礼儀作法入門』ほか

 昨日なんとなく寝る前に読み始めて、結局読み切ってしまった。

礼儀作法入門 (新潮文庫)

礼儀作法入門 (新潮文庫)

 マナー集というよりエッセイだろうなと思っていたら、意外とマナーそのものについても書いてあった。でもまあ基本的には、とくに現在の私からは、昔の情緒を懐かしむといった関心が主になった。いまやれば反感を買うだろうなという作法もあるし。でも読めてよかった。

 男女の別れ方、というような部分はちょっと書名からは想像できないかもしれない。ほぼ男性の視点から、しかも古い時代の感覚で書いてある。結婚前のいちゃいちゃというより、既婚男性と女性の別れるのが前提のような関係についての話だった。このトピックについては山口先生やや腰の引けているような。他の先輩やご同輩の体験談や考え方の紹介にほぼ終始していた。かろうじて最後に述べられているのは山口瞳の優しさの部分といえるかもしれないが、それはただの卑怯さかもしれないし、何ともいえない。そのへんについてはとくに感想はない。

 思い出すままに順序もとくになく感想を並べているのだけど、食器や靴下についての話題にはそうだなあと思った。安かろう悪かろうの大量生産ものをなんとなく使っているというのはちょっと悲しい。別に小物にこだわれといいたいわけではない。日常生活のなかで、毎日の食事のときの碗や箸のちょっとした口当たりや持ち重り、下着の着心地といった要素は、ささやかだけど幸福感の重要な要素という気がする。まあ今ではユニクロだとか無印良品だとか、安めの大量生産ものでもある程度肌触りのいいものはある。別に力説したいわけでもないのに、書きやすいことなので長くなった。

 『礼儀作法入門』にはまずはじめに、礼儀とは他人に迷惑をかけないことだ、そのためには何よりも健康を維持することだというようなことが書いてあった。そうだなあ、というと今健康を害しているかたに酷かもしれないけどそうではなくて、「人様のためにも、自分の健康を保つことを大事にする、無理をしないという姿勢を堂々と貫いていい」というような方向性の話だった。


 さっきネットを見ていたら、『続・礼儀作法入門』もあるらしい。提唱されている個々のマナーがどうかとかいうことでなく、複雑な気持ちはあるけれどそれでも昔のこういうかたの話をもう少し聞きたいので、ぜひ読んでみようと思う。肩のこらない時間に。

続・礼儀作法入門 (新潮文庫)

続・礼儀作法入門 (新潮文庫)


 マナー本と言えば『ミス・マナーズの本当のマナー』も、表面的なマナーにとどまらない、書き手のユーモアや優しさ、厳しさがにじみ出ていて好き。分厚いようで意外とすらすら読める。こちらのほうが実用的かもしれない。いわゆる癒し系では全然ないんだけど、私にとって思い出すと著者の温かみに励まされる一群の本というのがあってこの本もそのうちの一冊。

ミス・マナーズのほんとうのマナー

ミス・マナーズのほんとうのマナー


 マナーそのものについて無料で読める実用的な資料としては、「作法心得」がある。硬いタイトルだけど、こちらも少し昔のかたの人柄を感じさせる、読ませる内容。あとで印刷しておこうかな。何度も読んだ。男性向けの部分だけではなく女性にもよい。この「作法心得」については独立してエントリを立てようと思っていたけど、機を逸してしまった。
 集団で移動するときの作法とか、「脱帽空間」「着帽空間」という語法など、ためになるだけでなく読み物としてもおもしろい。数ヶ月前だったかネットで話題になっていた、落ちているごみを拾うかどうかという問題などは、別に悩まなくても「第3章 環境保持◆第3節 ゴミ処理」のような基準に従って行動すればそれでまったく解決だ。ある作法の歴史的経緯や各国での違いなども考察されていて面白かった。
 著者は元陸軍少尉からあちこちのお役所で勤務し、その後ホテル専門学校の講師をされた方。他のページにも経歴が散らばっていたと記憶しているが、昔の方の、こう晴れ晴れとした感じはいいなと思う。